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TikTokの「There's a Man」トレンドが暴く日常の女性嫌悪

2026年6月、『マルチホランド・ドライブ』の音源リミックスがTikTokで拡散中。ロブロックスのサムネイルから医療現場のガスライティングまで、見過ごされてきた女性嫌悪を浮き彫りにするトレンドを解説。

投稿日 2026/6/13

ハリウッド、妄想、保存、そして女性の抹消を描いた2001年のデヴィッド・リンチ監督作品のワンシーンが、いま何百万もの女性たちが日常の中でずっと気になっていた違和感を指摘し、ようやくそれを説明する言葉(あるいは少なくとも音源)を手にするためのバックトラックになっている。

このトレンドの構成はいたってシンプルだ。『マルチホランド・ドライブ』の音声が流れ、女性がキーとなるセリフ「この店の奥に男がいる(There’s a man in the back of this place)」に合わせて口パク(リップシンク)をする。そして、あるものを指し示す。その「指し示されたもの」こそが、このトレンドのすべてである。

音源の真のルーツ

このシーンは、デヴィッド・リンチ監督の映画『マルチホランド・ドライブ』(2001年)のものだ。ダイナーに座った人物が、繰り返し見る悪夢について語り始める。それは、ある場所で得体の知れない存在に遭遇し、強い恐怖を感じるというものだ。その人物はこう言う。「この店の奥に……男がいるんだ。そいつがすべてを仕組んでいる」シーンはホラー映画さながらに展開し、リンチは最後に強烈なオチを用意している。その男は、実際にダイナーの裏のまさにその場所に隠れているのだ。

現在TikTokで出回っている音源は、2026年2月26日に@.volt.ccによって作成されたリミックスで、リンチのダイアログにエイフェックス・ツイン(Aphex Twin)の「Alberto Balsalm」を重ねたものだ。最初の投稿は、フェミニズム的な文脈は一切ない「バックルーム(Backrooms)」のホラー動画であり、4ヶ月で180万回再生を記録した。そして5月になり、あるユーザーがこの音源が本当に語るべきテーマに気づいたのだ。

トレンドが実際に告発していること

この音源は2026年5月から6月にかけて急速に拡散し、女性たちが日常生活で見過ごされている、あるいは不可視化されている女性嫌悪(ミソジニー)や、女性嫌悪から生まれた社会規範を指し示すリップシンク・トレンドの定番曲となった。

最も再生されたのは、2026年6月10日にTikTokerの@journeywitheva1が投稿した動画だ。彼女は、子ども向けゲームプラットフォーム「ロブロックス(Roblox)」の多数のゲームサムネイルにおいて、男の子が常に女の子に勝つ構図になっていることを指摘した。この動画はわずか2日間で680万回以上再生された。一見、些細な観察に思えるかもしれない。しかし、それこそが本質なのだ。これらのサムネイルは子どもたちを対象にしている。男の子が勝ち、女の子は障害物か戦利品であるという暗黙の前提は、わざわざイデオロギーとして宣伝されることはない。ただ、子ども向けゲームのアートディレクションとしてそこに鎮座し、静かに意識を規定しているのだ。

他にもこの音源を使った動画では、フィギュア塗装の参考資料における男性の視線(オトコの目線)、医療現場で女性の体調不良が「精神疾患の演技」として片付けられてしまう構造、男女混合の友人グループにおいて女性が評価されることなく感情労働を押し付けられている実態、あるいはインターネット空間のデフォルト設定が男性ユーザーを前提として構築されている点などが挙げられている。

このフォーマットが機能するのは、音源が「言葉による不満」だけでは表現できない感情を伝えているからだ。リンチのシーンにある恐怖、正式な認知がないまま心で感じていた違和感をようやく言葉でとらえたときの戦慄、その感情の揺れ動きこそが、このトレンドの持つメッセージのすべてである。女性たちは議論をしているのではない。ただ、指をさしているのだ。

なぜ『マルチホランド・ドライブ』なのか

『マルチホランド・ドライブ』は、英国映画協会(BFI)の『Sight and Sound』誌が発表した「史上最高の映画100選(2026年改訂版)」の批評家投票で第8位にランクインした。BBCやIndieWireも、本作を「21世紀最高の映画」に選出している。これは2人の女性が物語の中心に据えられ、彼女たちの破滅が個人的な問題ではなく、システムによる構造的なものであることを冷静に描ききった作品だ。

2021年の『LA Review of Books』は、リンチがハリウッドにおける「白人男性性の神話」に対する批評を行っていることを自覚している一方で、その神話があまりにも浸透しているため、一部のファンはそれを批判のない「福音」として受け取っていると指摘した。女性の扱いにおいて問題のあるリンチ自身が、男性の視線を自己言及的に批評するというこのねじれこそが、この音源がまさに適した場所に着地した理由である。あのシーンは、ずっとそこにあった恐怖をようやく目撃した瞬間の戦慄を描いている。それこそが、このトレンドが表現しているものなのだ。

なぜ「アンダーシーン(見過ごされている)」がキーワードなのか

バズっている動画で描かれているのは、直接的な暴力やあからさまな差別ではない。ゲームのサムネイル、病院の診察室、友人関係のダイナミクス、全員向けに作られたはずのサービスで男性だけがデフォルトに想定されている仕様など、日常の風景に溶け込んでいるものばかりだ。ロブロックスのサムネイルを指摘した動画が680万回も再生されたのは、人々を驚かせたからではなく、何百万もの人々が心の中で感じつつも言葉にしていなかった違和感を証明したからである。

これこそが、このトレンドが果たしている特有の文化的機能だ。怒りではなく、気づきである。音源はその感覚に「この奥に男がいる、そいつがすべてを仕組んでいる」と名前を与え、リップシンクという形式によってその気づきを共同体のものにする。動画を投稿する女性たちは、誰かを説得しようとしているのではない。自分がそれを目撃しているという事実を、記録(ドキュメント)しているのだ。

このトレンドもいずれ終息し、来週になってもロブロックスのサムネイルは変わらないかもしれない。しかし、@journeywitheva1の動画を視聴した680万人の人々は、全員が気づきながらもうまく言葉にできなかった違和感に対する「共通の参照点」を手に入れたのだ。2025年1月に入滅したデヴィッド・リンチ監督も、自らの作品がこのような形で人々に作用したことを知れば、映画が目指した役割と完全に一致していると感じたはずだ。


情報源


著者について

ネオ・ノワールにおける「男性の視線(オトコの目線)」で卒論を書き、『マルチホランド・ドライブ』を11回観ており、深夜2時に「私が言ってたのはまさにこれのこと!!」というキャプションとともにTikTokを送りつけてくる29歳の映画専攻の姉。

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